最新情報&ブログ

Latest information & blog

心の疲れ

  • うつ病とは

    厚生労働省が実施している調査によれば、精神疾患により医療機関にかかっている患者数は、近年大幅に増加しており、1999年に200万人だったのが2011年は320万人、2014年は390万人となっています。その内訳としては多い順に、うつ病、統合失調症、不安障害、認知症などとなっており、 近年においてうつ病や認知症などの著しい増加が顕著です。

    うつ病は、精神活動のエネルギーが欠乏した状態であり、それによって憂うつな気分やさまざまな意欲(食欲、睡眠欲、性欲など)の低下といった心理的症状が続くだけでなく、さまざまな身体的な自覚症状を伴う脳の病気です。即ち、エネルギーの欠乏による全身を統合する脳のダメージにより、システム全体にトラブルが生じてしまっている状態と考えることもできます。

    脳のエネルギーが欠乏していなければ、自然治癒力によって憂うつな気分も回復し元気になるのが通常です。時間の経過とともに改善しない、あるいは悪化する場合には生活への支障が大きくなり、「病気」としてとらえることになります。そのため、仕事・家事・勉強など本来の社会的機能がうまく働かなくなり、また人との交際や趣味など日常生活全般にも支障を来すようになります。

     

    うつ病の種類と特徴

    うつ病を分類する場合に、①症状の現れ方、②重症度、③初発か再発か、④特徴的な病型などの分類の仕方があります。

    ① 症状の現れ方による分類

    うつ病の中で、うつ状態だけが起こるものを「単極性うつ病」、うつ状態と躁状態の両方が起こるものを「双極性うつ病」と呼びます。

     

    ② 重症度による分類

    症状による仕事や日常生活に現れる支障の程度による分類です。「軽症」は、仕事や日常生活、他人とのコミュニケーションに生じる障害はわずかで、周囲の人はあまり気がつかないことも多いレベルです。一方「重症」は、仕事や日常生活、他人とのコミュニケーションが明らかに困難なレベルです。「中等症」は、「軽症」と「重症」の間に位置します。

     

    ③ 初発か再発かによる分類

    「単一性」か「反復性」かの分類です。「反復性」の場合は、特に再発防止に対する対応が重要になってきます。

     

    ④ 特徴的な病型による分類

    「メランコリー型」、「非定型」、「季節型」、「産後」などがあります。

    「メランコリー型」は、典型的なうつ病と言われることの多いタイプです。さまざまな仕事や責務、役割に過剰に適応しているうちに脳のエネルギーが枯渇してしまうような経過をたどるものを指しています。特徴としては、良いことがあっても一切気分が晴れない、明らかな食欲不振や体重減少、気分の落ち込みは決まって朝がいちばん悪い、早朝に目が覚める、過度な罪悪感などがあります。

    それに対し「非定型」の特徴としては、良いことに対しては気分がよくなる、食欲は過食傾向で体重増加、過眠、ひどい倦怠感、他人からの批判に過敏などがあります。

    「季節型」は「反復性」の一種で、特定の季節にうつ病を発症し季節の移り変わりとともに回復がみられます。どの季節でも起こり得ますが、冬季うつ病が有名で日照時間との関係が言われています。

    「産後」のうつ病は、産後4週以内にうつ病を発症するものです。ホルモンの変化、分娩の疲労、子育てに対する不安、授乳などによる睡眠不足など、不健康要因が重なることが影響していると考えられています。

     

    うつ病の原因

    さまざまな研究によって分かっていることは、「うつ病を引き起こす原因はひとつではない」ということです。生活の中で起こるさまざまな原因(要因)が複雑に結びついて発症してしまいます。

    まず最もきっかけとなりやすい「環境要因」ですが、家族や親しい人の死や離別、仕事や財産、健康など大切なものを失う、人間関係のトラブル、家庭内のトラブル、昇格、降格、結婚、妊娠など職場や家庭での役割の変化など、さまざまなできごとが要因となり得ます。

    また「性格傾向」も発症要因のひとつです。義務感が強く、仕事熱心、完璧主義、几帳面、凝り性、常に他人への配慮を重視し関係を保とうとする性格の持ち主は、エネルギーの放出も多いということになります。努力の成果が伴っているうちはエネルギーの回復もみられますが、成果が出せない状況が生じたり、エネルギーの枯渇が起これば発症の危険が高まります。

    その他「遺伝的要因」、「慢性的な身体疾患」も発症要因のひとつです。最近の研究でうつ病は、脳内の神経細胞の情報伝達にトラブルが生じているという考え方があります。この情報伝達を担うのが「神経伝達物質」というもので、中でも「セロトニン」や「ノルアドレナリン」といわれるものは、人の感情に関する情報を伝達する物質であることが分かってきました。前述のさまざまな要因によって、これらの物質の機能が低下し、情報の伝達がうまくいかなくなり、うつ病の状態が起きていると考えられています。

    うつ病の前兆の状態

    まず、うつ病の主要な症状である「憂うつ感」の特徴を挙げます。

    ① 楽しみや喜びを感じない

    通常なら楽しかったようなことでも、楽しみや喜びを感じなくなります。何をしていても憂うつな気分を感じてしまいます。

    ② 何か良いことが起きても気分が晴れない

    きっかけとなったできごとや問題が解決したり、自分にとって良いことが起こっても、気分が晴れない状態が続いてしまいます。

    ③ 趣味や好きなことが楽しめない

    健康な状態であれば、嫌な気分のときに好きな趣味の運動等で思いっきり汗を流したりすることで、気分が晴れたりするものです。うつ病になっていると楽しめないどころか、疲労感ばかりが増してしまいます。

    うつ病はこうした症状が2週間以上継続する状態をいいます。早い時点で自覚できれば、発症を未然に防げる可能性も高くなります。ただ、こうしたうつ病を代表とするメンタルヘルス疾患は生活習慣病にもたいへん類似しており、日々生活をしている中で、なかなか自覚しにくいという特徴があります。

    そんな中で、エネルギー充電である睡眠に注目すると、「疲れているのに眠れない」となると、充電は底をつき自然治癒力が減少し不健康な方向へ進んでしまいます。最近では、不眠がある人は不眠のない人に比べ、3年以内にうつ病を発症するリスクが4倍になるなど、不眠とうつ病の関連性を示す研究報告が多く、注目されています。睡眠に注目する利点は、自覚しやすい点です。寝つきに30分以上かかる、途中で何度も目が覚める、朝やたら早く目が覚める、熟睡感がなくなる、などに気がついたら、まずは生活習慣を見直すことが重要です。具体的には、仕事の仕方を再検討する、就床前4時間のカフェイン摂取を避ける、直前までパソコンやスマホの画面を見つめない、ぬるめのお湯での入浴や音楽などでリラックスする、目覚めたら日光を取り入れる、趣味など自分のための時間を確保する、休日の過ごし方を工夫するなどがあります。

     

    うつ病の鍼灸治療

    うつ病は心因性の疾患であって、その治療は精神的症状の解消を目的にしているわけですが、その状態を作っている基となる自律神経系の過敏性や不安定性を、鍼灸が改善し、付随的な身体的症状を軽減、消失させることで大きな効果を出すことができます。

    : 百会、太陽、風池、厥陰兪、肝兪、中脘、内関、蠡溝

    百会、太陽、風池は神経系中枢の異常興奮を鎮め、不安、緊張、焦燥、不眠、頭重などの症状を除く効果が高い。厥陰兪、内関は心悸の興奮に効果があり、中脘は食欲不振、胃部重圧感、吐き気などに有効。

    : 風池、肝兪、内関

     

    また、各症状に合わせて以下のような鍼灸治療を追加すればさらに効果が上がります。

    ①       頭痛、頭重に対しての: 天柱

    ②       不眠、めまいに対しての: 完骨

    ③       発汗、発疹に対しての: 腎兪、陰谷

    ④       四肢の痺れ、運動麻痺、疼痛、倦怠感に対しての: 曲池、足三里

    ⑤       動悸、頻脈、不整脈に対しての: 膻中、郄門

    ⑥       呼吸困難に対しての: 肺兪、太淵

    ⑦       食欲不振、嘔吐、下痢、便秘に対しての: 脾兪、大腸兪

    ⑧       性欲低下、月経異常、ED等生殖器系疾患に対しての: 腎兪、関元兪

     

    うつ病の療養指示

    うつ病は治療を始めればすぐに治療が終わるというものではありません。治癒していく過程にはある程度の期間が必要になります。 治っていく経過も、良くなったり、悪くなったりという小さな波をもちながら、階段をゆっくりと1段ずつ上るように段階的に改善していきます。そして、うつ病の8割ほどはほとんど以前の元気が回復している状態=「寛解」状態を迎えることができるとされています。

    うつ病の鍼灸治療は、自律神経系の過敏性や不安定性を改善することにより、現れた身体的症状に対して働きかけて精神状態の好転を期待するものですが、合わせて自律訓練法、行動療法などの広い意味での心理療法の採用が可能ならば治療のさらなる改善が図れることでしょう。

  • 不眠とは、睡眠と覚醒のリズムが破れ主観的な睡眠感を得られないことを言い、以下のような形態に分類できます。

    ①    就眠障害(入眠障害):床に入ってもなかなか眠ることができず、甚だしいときは一睡もできないことがある。神経質者、神経症者の不眠に代表される

    ②    熟睡障害(中間覚醒):眠りが浅く、夜中に何度も目が覚めるもの。脳器質障害、うつ病、統合失調症、また中間覚醒は老年性不眠症にも見られる

    ③    早期覚醒:早朝に目覚めてしまい、その後眠れないもの。躁鬱病に多く見られるが、老年性不眠にもある

     

    不眠症はその発生機序により以下の種類に分類されます。

    ①    一過性不眠症は、急性のストレス、ショックなどにより誘発されるもので、鍼灸治療に適する

    ②    持続性不眠症は慢性的な緊張、不安などによるもの。鍼灸治療により自律神経系を刺激することで改善する

    ③    症候性不眠は各種の疾患に伴う睡眠障害で、特にうつ病などの精神疾患によるもの、内科的、あるいは外科的な痛みによるものが挙げられる。あるいは、発熱、掻痒感、咳、痰、呼吸困難、下痢、嘔吐なども不眠の原因になる。これらは原因疾患の治療が優先されないと治癒には至らない

     

    不眠症(睡眠障害)の鍼灸治療

    鍼灸治療は精神的な興奮や自律神経の乱れを鎮め、全身調節をおこない正常な身体のリズムを取り戻すようにします。不眠障害の初期の方や軽い症状の方は、鍼灸治療が極めて効果的です。

    鍼は太陽、完骨に一定時間の置鍼、灸は完骨のツボを使います。また、補助的に背後兪穴で肺兪、心兪、腹部の中脘、前腕内側の内関を使います。灸は眠った気がしないという人に厥陰兪が有効です。

    東洋医学では、不眠症(睡眠障害)は「失眠」または「不寝」といい、心・肝の機能の変調によって起きると考えています。心による不眠は寝つきが悪く、寝ても夢見が多く、肝による不眠は眠りが浅く、よく目を覚まします。原因としては,生まれたときからの体質が弱い、食事の不摂生や感情の乱れ、ストレス、慢性病による体力の低下などが考えられます。

     

    イライラによる不眠症(肝)

    このタイプは神経質で怒りっぽい。口が渇く、目が赤くなり、口が苦い、便秘などの特徴があります。

    鍼灸治療のポイント:肝経のツボとして肝兪、期門、蠡溝、胆経の陽陵泉を使って治療を行います。

     

    身体の抵抗力が低下した不眠症(肺)

    上気道が弱く感冒に冒されやすく気管支が弱くて咳・痰が出やすい、皮膚の抵抗が弱く虫刺されやかぶれが起きやすい、下痢と便秘を反復するなどの傾向があります。

    鍼灸治療のポイント:肺経の中府、太淵、脾経の三陰交に鍼とお灸の治療を行います。

     

    体力低下による不眠症(腎)

    病気の後や加齢によるものが多く、眠りが浅くなる、寝つきが悪くなるタイプです。

    鍼灸治療のポイント:腎兪、関元、復溜など腎経に軽く刺激でお灸と鍼を行います。

     

    生活習慣の改善

    精神疾患など症候性の不眠症は別として、精神生理学的な要因による不眠症は生活習慣を改めることで改善します。以下にその要点を掲げておきます。

    ①    寝る前には、興奮する会話やTVでのスポーツ観戦などを避ける

    ②    夜は刺激物であるカフェイン(お茶やコーヒーなど)やニコチン(煙草)の摂取を止める

    ③    寝る前は軽い音楽を聞いたり、精神が休まるような内容の書を読んでリラックスする

    ④    規則正しい食事(寝る前の飲食をしない)と規則的な運動習慣

    ⑤    眠くなってから床に就くこと。就寝時刻にこだわり過ぎない

    ⑥    毎日同じ時刻に起床する(早寝早起きの生活習慣)、さらに朝に太陽の光をしっかりと浴びて体内時計のリズムを正しく動かす

    ⑦    眠ろうとして過度の努力をせず目を閉じて静かに身を横たえておく

     

     

     

  • ストレス関連障害は、ストレス体験をしてから症状が出るまでと症状の持続期間、ストレスの程度によって、急性ストレス障害、外傷後ストレス障害、適応障害の3つに大きく分けられます。急性ストレス障害(ASD)と心的外傷後ストレス障害(PTSD)は地震、洪水、火事のような災害、または事故、テロ、戦争といった人災、あるいは、監禁、強姦など犯罪の被害、強い恐怖感を伴った体験や生命の危険にさらされた体験、あるいは、いじめ、体罰、虐待、DV、パワハラ、モラハラ、セクハラなど人としての尊厳が損なわれるような非常に強いトラウマ(心的外傷)が原因となりますが、外傷的な出来事は必ずしも直接的な体験だけとは限りません。テレビやインターネットなどで悲惨な場面を観たり、人によっては話を聞いただけで急性ストレス障害の状態になってしまう事もあります。

    急性ストレス障害、あるいは外傷後ストレス障害は、ストレス体験直後から3ヵ月以内に発症します。症状が、強い恐怖、無力感または戦慄を伴う出来事の後、1ヵ月以上持続している場合には心的外傷後ストレス障害、持続期間が1ヵ月未満の場合には急性ストレス障害と診断されます。なお、心的外傷には事故・災害時の急性トラウマと、児童虐待など繰り返し加害される慢性の心理的外傷があります。ASDやPTSDと判断されるのは、以下の3つの基本症状です。

    • 過覚醒: 精神的不安定による不安、不眠など
    • 回避: トラウマの原因になった障害、関連する事物に対して避ける傾向
    • 再体験: 事故・事件・犯罪の目撃体験等の一部や、全体に関わるフラッシュバック

     

    ASDやPTSDの症状は多種多様で、上記以外にも以下のような自律神経失調症状が現れます。

    ○ 精神症状

    イライラする、落ち込みやすい、感情の麻痺、集中力の低下、意欲の低下、記憶力の低下、注意力がない、不安感が強い、ちょっとした事ですぐあせるなど

    ○ 全身症状

    疲れやすい、疲れが取れない、めまい、立ちくらみ、微熱、不眠、食欲不振、ほてり、冷え、冷や汗など

    ○ 呼吸器系

    息苦しい感じ、息ができない、酸欠感、息切れしやすいなど

    ○ 循環器系

    動悸、胸部圧迫感、めまい、立ちくらみ、のぼせ、冷え、血圧の上昇・低下など

    ○ 消化器系

    胃もたれ、腹部膨満感、腹鳴、胃の不快感、吐き気、食欲不振、便秘、下痢、ガスがたまるなど

    ○ 泌尿器系

    頻尿、尿が出にくい、残尿感など

    ○ 生殖器系

    インポテンツ、早漏、射精不能、生理不順、外陰部のかゆみなど

    ○ その他

    頭痛、頭重感、首・肩のこり、目のピントが合いにくい、涙目、まぶしさ、耳鳴り、耳の閉塞感、口が渇く、のどの異物感、のどの苦しさ、手足の冷え、手足のほてり、顔のほてり、手足の発汗、手のふるえなど

     

    一方、適応障害は、ストレス要因により日常生活や社会生活、職業・学業的機能において著しい障害がおき、一般的な社会生活ができなくなるストレス障害で、災害や人災の他に個人的問題、家族関係や職場のトラブルなどもストレス要因になります。不安、抑うつ、焦燥、過敏、混乱などの情緒的な症状のほか、不眠、食欲不振、全身倦怠感、易疲労感、ストレス性胃炎、頭痛、吐き気、発熱、体のふるえ、精神運動抑制など、ストレス反応としての身体的症状が自覚症状としてあらわれます。軽度のうつ病と区別がつきにくく、放置しているとうつ病になり、悪化する場合があるので注意が必要です。性格が真面目で責任感があり、忍耐強い人ほどかかりやすいと言われています。また、適応障害がもとで発生する身体的な異常は、自律神経失調症や心身症ともよばれます。

     

    3種類のストレス障害(まとめ)

    急性ストレス障害

    (ASD)

    外傷後ストレス障害

    (PTSD)

    適応障害
    発症時期 ストレス体験直後~1ヵ月以内

     

    ストレス体験1ヵ月以降~3ヵ月以内

     

    ストレス体験後~3ヵ月以内

     

    経過 2日間~1ヵ月 1ヵ月以上~(1年以上) ストレス終結後6ヵ月以内(ただし、うつ病などに移行することが多い)

     

    程度 極度のストレス

     

    極度のストレス

     

    いかなるストレスでも

     

    症状 解離性症状、再体験、外傷関連の刺激の著しい回避、強い不安症状/覚醒亢進 再体験、外傷関連の刺激の持続的回避・全般的反応麻痺 抑うつ、不安、行為の障害

     

    極度の緊張状態で交感神経優位が続くと、全身の血液循環等に障害が生じ、身体の各部に痛みを感じやすくなります。また、姿勢も崩れてくるため、身体各部位のバランスが乱れ、頸部や腰部の筋肉等が疲れやすくなります。鍼灸以外の一般的なストレス障害の治療法としては、抗不安薬、睡眠導入剤、抗うつ薬、抗精神病薬など薬物による治療やカウンセリング治療ですが、身体的な症状を和らげるためには、ストレス要因を排除するだけでなく、ストレス要因や「自分自身」を客観視し、認知評価を変えていくような方法が大切です(認知行動療法)。さらには、リラクセーション、自律訓練法(自己暗示をして心身をリラックスさせる方法)などによる治療法があります。適度な運動などによって情緒的、身体的興奮を鎮めることも効果があります。

     

    鍼灸治療法

    ストレス障害を持つ方の多くが身体の痛みを伴っています。筋痛、関節痛などですが、原因は過度の精神的緊張による自律神経のアンバランスにあります。このとき、鍼灸によって身体症状を直していく過程で、精神的症状も軽くなっていきます。まさに「心身一如」そのものを表しています。

    鍼によるストレス障害の直接的な治療法としては、「自律神経失調症」の「神経系愁訴」を参照いただければ良いかと思いますが、それ以外にも精神的安定を図る経穴として、以下のようなものが効果的です。

    内関・神門・労宮・湧泉・太衝・太谿・三陰交・豊隆・足三里・百会・四紳聡・神庭・印堂・大椎・心兪・肝兪・・脾兪・胃兪・腎兪・志室・膻中・期門・中脘

     

     

  • 2種類の自律神経の役割

    自律神経は意識的な制御ができない不随神経で、平滑筋、心筋および腺に分布し、そのうちの遠心性神経は交感神経、および副交感神経に分けられ、各々役割分担を持っています。交感神経が、外敵や外からの刺激に瞬時に反応できるように体勢を整えるのが特徴的な役割だとすれば、一方の副交感神経は、リラックスするための神経で、緊張した身体を休めて疲れを解消したり、修復したりしておくのが役割です。

    交感神経と副交感神経の働き

     交感神経  副交感神経
    循環器・呼吸器・筋肉: 体を活発に動かすのに必要な酸素を全身に運ぶために呼吸と心臓の鼓動が速くなり、呼吸回数の増加、血圧の上昇、脈拍数の増加が起こる

    血液循環が良くなり体温が上昇。上昇した体温を下げるために、汗をかくメカニズムが働く

    血管が収縮するため筋肉は硬く緊張した状態になり、末端部分は冷えやすくなる

    大量の酸素は必要としないため、呼吸や拍動は緩やかになり、血圧も下降
    消化器・臓器系・感情・感覚神経系: 脳からはドーパミンやノルアドレナリンというアドレナリン物質が分泌され、外からの刺激に対して敏感に反応できるようになる

    血液を筋肉や脳に集中させるため、消化器官の活動は抑えられる。この状態が長く続くと、消化器官が正常に働かず消化不良や胸やけの原因となってしまう

    また、イライラしたり、感情が不安定になりやすくなる

    睡眠不足状態が長く続くと、睡眠のサイクルが狂い自律神経と副交感神経の切換がうまくいかず、自律神経失調症のきっかけとなってしまう

    胃・腸・腎臓・肝臓・生殖器官などの臓器が働き出す

    食べた物を消化・吸収して体内を修復したり、必要なエネルギーとして各臓器にためる

    副交感神経の働きが活性化すると休息モードとなり、眠気を催す

    全身: アドレナリンには血管に対しては収縮作用があるため、副交感神経との切り替わりが正常に行われないと血管が長期間収縮されたままになってしまう。その結果、血管障害が引き起こされ、肩コリや頭 痛、めまいと言った症状が現れる 筋肉の緊張がゆるみ血管が拡張し、血流やリンパ液が全身を循環しやすくなる。そのため、筋肉の間に溜まった疲労物質や新陳代謝によって生まれた老廃物の排出がスムーズに行われるようになる

    自律神経失調症とは

    自律神経失調症は、交感神経と副交感神経という2種類の神経のバランスが崩れたためにおこる様々な身体の不調のことです。医学的には、内臓や神経・筋肉などの組織に病的異常がなく、原因も不明であり、自律神経の機能にだけに変化が生じた状態を言います。病的異常がないので病院で検査をしても異常なしという結果になることが多いのです。

    自律神経失調症の発症原因には、もともとアレルギー体質であることや、痩せ型である、高血圧、冷え症、性ホルモンの不平衡などが関係します。さらに性格的に短気、生真面目、完全主義、自信欠乏などが因子となり得ます。社会的環境では、仕事上の精神的ストレス、仕事/家庭上の大きな出来事(解雇、転職、家族の死別、離婚など)による精神不安も自律神経バランスを傷害する原因となります。これらは受けるストレスの種類、大きさ、また感受性など個人差も大きく、症状の出方も様々で不安定です。

    『自律神経失調症』はいわゆる「不定愁訴」の主要疾患です。不定愁訴全体には、精神的な愁訴がメインの精神疾患であり、パニック障害や強迫性障害などに代表される「神経症」や、身体的愁訴がメインの「心身症」が含まれています。心身症は、精神的な緊張や過大なストレスが原因で生じる身体疾患であり、症状の発生原因や転帰に心因が大きく影響しています。

    自律神経失調症の症状

     頭: 頭痛、頭重感、偏頭痛、筋緊張性頭痛、脱毛
     耳: 耳鳴、耳の閉塞感
     口: 口の乾き、口中の痛み、味覚異常
     眼: 疲れ目、眼瞼痙攣、なみだ目、目が開かない、目の乾き(ドライアイ)
     のど: 異物感、圧迫感、イガイガ感、詰まり感(食事の時など)
     心臓・血管系: 動悸、胸部圧迫感、めまい、立ちくらみ、のぼせ、冷え、ほてり、しびれ、血圧の変動、不整脈
     呼吸器: 息苦しい、息がつまる、息ができない、酸欠感、息切れ
     消化器: 食道のつかえ、異物感、吐き気、腹部膨満感、下腹部の張り、腹鳴、胃の不快感、便秘、下痢、ガスがたまる
     手: 手のしびれ、手の痛み、手の冷え
     足: 足のしびれ、足のひえ、足の痛み、足がふらつく
     皮膚: 多汗、汗が出ない、冷や汗、皮膚の乾燥、皮膚のかゆみ
     泌尿器: 頻尿、尿が出にくい、残尿感
     生殖器: インポテンツ、早漏、射精不能、生理不順、外陰部のかゆみ
     筋肉・関節: 首、肩、背中のコリ・痛みやハリ感、関節のいたみ、関節のだるさ、力が入らない
     全身症状: 倦怠感、易疲労感、めまい、微熱、フラフラする、ほてり、食欲がない、不眠(眠れない、すぐ目が覚める、起きるのがつらい)
     精神症状: 感情的(怒りっぽくなる、イライラする、すぐ悲しくなる)、不安感(不安になる、恐怖心におそわれる)、ネガティブ指向(何かと悲観的になる、落ち込むと回復しない、ささいなことが気になる)、無気力(やる気がでない、何もしたくない)、集中力の低下(集中力がない、記憶力や注意力が低下する)

     

     

    自律神経失調症と関係の深い病気

    症状が特定の部位に強くあらわれた場合は病名がつけられることもあります。以下のような病気は自律神経失調症の一種です。

    循環器系 心臓神経症、不整脈、起立失調症候群、起立性調節障害
    呼吸器系 過呼吸症候群、気管支ぜんそく
    消化器系 過敏性大腸症候群、胆道ジスキネジー、神経症嘔吐症、反復性臍疝痛、神経性下痢
    神経系 偏頭痛、緊張性頭痛
    耳鼻科 めまい、メニエール病、乗り物酔い、咽喉頭異常感症
    口腔外科 口内異常感症、舌痛症、顎関節症
    皮膚科 円形脱毛症、発汗異常、慢性じんましん
    泌尿器系 膀胱神経症、夜尿症、心因性排尿障害
    婦人科 更年期障害

     

     

    自律神経失調症の鍼灸治療

    西洋医学的には神経症、心身症、自律神経失調症など不定愁訴の治療方法は各々異なりますが、東洋医学では愁訴にかかわらず、自律神経の関与が考えられる点において、共通の治療法で有効な結果を得る場合が多いものです。

    共通治療:肺兪・肝兪・腎兪・中脘・天枢などへの鍼、肝兪・腎兪への灸

    筋肉のこわばりを主訴とするもの(倦怠感、易疲労、肩こり、関節のこわばりなど):肩井・脾兪・曲池・足三里への鍼、曲池・足三里への灸

    神経系愁訴(頭痛、頭重、イライラ感、不眠、めまいなど):天柱・風池・完骨・太陽への鍼、天柱・完骨への灸

    循環器系愁訴(動悸、胸部絞扼感、血圧変動、頻脈、のぼせ、足腰の冷えなど):心兪・膻中・郄門・太谿への鍼

    消化器系愁訴(胃部のつかえ、軽い胃痛、悪心、嘔吐、口渇などで便秘・下痢を伴いやすい:脾兪・大腸兪・梁門・足三里・三陰交への鍼、脾兪・足三里への灸

    呼吸器系愁訴(息苦しさ、息切れ、長期の咳など):中府・尺沢への鍼

    皮膚系愁訴(発汗異常、多汗、皮膚掻痒など:肩髎・曲池・築賓・陰谷への鍼、曲池・築賓への灸

    泌尿・生殖器系愁訴(頻尿、残尿感、陰萎、月経困難、不感症など):関元兪・次膠・関元・陰谷・三陰交・崑崙への鍼、関元兪・関元への灸