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2016年12月

  • 排尿とは、腎臓で生成された尿が膀胱に貯まり(蓄尿)、それが一定以上貯まると尿意を感じて意志によって貯まった尿を排出する(排尿)という一連の過程のことを言います。この過程に問題が生じた場合を排尿異常と呼びます。排尿異常には以下のようなものが挙げられます。

     

    排尿痛

    多くは膀胱と尿道が該当する下部尿路の疾患が原因で生じるものです。尿路感染症により尿路、膀胱内に炎症が起き、それが痛みの原因となります。特に膀胱三角部と呼ばれる部分は感覚神経が豊富にあり痛みを感じやすくなっています。女性では膀胱炎、男性では前立腺炎がその代表的な疾患です。

     

    頻尿

    健常者の1日の尿量は1000~1500mLで、1回の尿量の平均は200~400mL程度です。また、排尿回数は4~8回が標準です。頻尿は日中覚醒時の排尿回数が8回以上のものを言い、夜間頻尿は夜間就眠中に覚醒しての排尿障害が2回以上のものを言います。頻尿の原因として最も頻度が高いのは急性膀胱炎で、主に細菌感染によって膀胱粘膜に炎症が起き、知覚過敏となって尿が少し貯まっただけで尿意を催すものです。

    その他、膀胱内部の癌や結石などにより膀胱容量が減少した場合に、あるいは前立腺肥大、尿路狭窄等により下部尿路が通過障害を起こすと排尿筋が肥厚して神経過敏になった場合に頻尿が起きます。排尿中枢やその神経の経路が傷害されて起きる神経因性膀胱、器質的には異常がなく神経質な人で起きる心因性頻尿があります。

    さらに、利尿剤は総尿量を増やすので頻尿となり、降圧剤など副交感神経遮断薬である抗コリン薬などは1回の排尿量が減り頻尿となります。

     

    尿失禁

    自分の意思によらず尿が漏れ出てしまう状態を言います。腹圧性尿失禁は高齢の多産婦に多く、くしゃみや咳などお腹に力が入ったときに尿が漏れ出てしまうものです。排尿中枢やその神経の経路が障害されて生じる神経因性膀胱で頻尿となりますが、尿意を催したときトイレが間に合わなければ尿失禁が起きます。

    脊髄損傷では上位中枢と下位中枢が両方とも傷害されるため、尿意が消失し反射性の膀胱収縮により頻尿となり尿失禁を起こした場合、反射性尿失禁と呼びます。大脳障害で抑制が効かなくなり失禁するものを運動性切迫性尿失禁、膀胱の知覚過敏で起きたものを知覚性切迫失禁と呼んでいます。

     

    排尿困難・尿閉

    尿意はあっても膀胱の尿をスムーズに排出できない状態を言います。前立腺肥大症や、前立腺癌、尿道結石など尿道の狭窄で排尿困難が起き、病状が進行すると閉塞されてしまうため尿閉となります。

    また、排尿中枢やその神経の経路の障害による神経因性膀胱でも意志による排尿が困難となり、排尿困難となります。糖尿病になると末梢神経障害により尿意が起こりにくくなり、排尿筋の収縮も弱くなるため排尿障害が起きます。

     

    膀胱炎

    急性膀胱炎は、疲労などで免疫力が低下しているようなときに、多くは大腸菌、次にブドウ球菌の感染により起きます。抗生剤で炎症が治まれば鍼灸の対象になります。また、急性からから移行して慢性膀胱炎となったり、ウィルスが原因と言われる無菌性の膀胱炎もあり、いずれも鍼灸のよい適用となります。

     

    前立腺肥大症

    前立腺は、男性だけにあるホルモン生殖器官で、膀胱の出口にあって尿道が中心を通っており、精液の一部である前立腺液を分泌しているところです。この前立腺の肥大は加齢に伴って自然に起こると言われており、60歳以上の7割で見られます。前立腺の肥大が尿道を圧迫すると、尿の出や勢いが悪くなったり、残尿感、頻尿などの排尿障害が起こります。合併症として、尿路感染症を起こす危険性が高くなり、そのまま放置していると腎臓にも影響が及び、腎不全を起こす事もあります。

     

     

     

    排尿異常の鍼灸治療

    共通鍼灸治療: 腎兪・膀胱兪・曲骨

    鍼のみ、灸のみでも効果はありますが、併用治療が一層有効です。

     

    頻尿・排尿痛・尿失禁

    鍼: 関元・陰谷・崑崙

    灸: 命門・崑崙

    排尿障害は腎経、肝経の治療、頻尿・尿失禁は腎経と膀胱経を補う治療を行います。

     

    排尿困難・尿閉

    鍼: 委陽・行間

    灸: 曲泉・陽陵泉

    尿閉などの障害に対しては肝・胆経の治療を中心に腎経を補助的に使います。

     

    排尿異常の療養

    刺激性の食べ物、不消化のものは避けて、便秘に向かないように注意します。過労を避けて安静にし、下腹部を温めます。

     

     

     

     

     

  • 更年期障害とはどんな病気か

    更年期は、性成熟期から生殖機能喪失期への移行期(45~55歳)にあたり、平均51歳で訪れる閉経の前後約5年間ほどの期間に生じる自律神経失調症状と精神症状が相互に関係しあって起こる「不定愁訴」の総称と考えられます。


    原因は何か

    更年期になると、加齢に伴う卵巣機能の低下によって卵巣から女性ホルモンのエストロゲンの分泌量が減りますが、それをカバーするために性腺刺激ホルモン(FSHやLH)が過剰に分泌されることになり、いわゆる「ホルモンバランスの乱れ」が起こります。これが脳の視床下部にある自律神経中枢に影響を及ぼして自律神経失調症を引き起こします。また、この年代の女性を取り巻く家庭や社会環境の変化からくる心理的ストレスが大脳皮質‐大脳辺縁系に影響を与え、憂うつや情緒不安定などの精神症状を引き起こします。この自律神経失調症状と精神症状が相互に影響し合って、更年期障害の病状を複雑にします。


    症状の現れ方

    更年期障害の症状は、以下のように自律神経失調症状、精神症状、その他の症状に分けられますが、通常、自律神経失調症状と精神症状は混在しています。自律神経性更年期障害は、エストロゲンの減少により自律神経のバランスが乱れ、血液循環などの働きがうまくいかなくなって起こる症状で、「血管運動系障害」といいます。身体的な不調、不快な症状の多くを占めています。代表的なものは、ホットフラッシュ(突然顔がカーッと熱くなり、汗がダラダラ出るのぼせやほてり)の症状です。ホットフラッシュは閉経女性の多くに認められ、数年間の長期にわたる場合もあります。

    身体的な不調としては、このほかにも動悸、めまい、息切れ、耳鳴り、頭痛、コリ、倦怠感など、全身にさまざまな症状がみられます。また、精神症状としての憂うつは、閉経女性の半数近くに認められています。また、最近の調査では、日本の更年期女性の特徴として、ホットフラッシュよりも肩こりや憂うつを訴える頻度が高いことがわかっています。また、精神的症状としては、イライラ、落ち込み、不安、不眠、意欲の低下などで、身体的症状と一緒にあらわれることが多いものです。

     

    自律神経失調症状の現れ方

    血管運動神経症状 のぼせ、発汗、寒気、冷え、動悸
    精神的症状 情緒不安定、イライラ、怒りっぽい、抗うつ気分、涙もろくなる、意欲の低下、不安感
    運動器症状 腰痛、関節・筋肉痛、手のこわばり、むくみ、しびれ
    消化器症状 嘔気、食欲不振、腹痛、便秘・下痢
    皮膚粘膜症状 乾燥感、湿疹、かゆみ・蟻走感
    泌尿生殖器症状 排尿障害、頻尿、性交障害、外陰部違和感
    胸部症状 胸痛、息苦しさ
    全身的症状 疲労感、頭痛、肩こり、めまい

     

    更年期障害の鍼灸治療

    共通治療: 風池・肩井・厥陰兪・関元兪・次膠・関元への鍼、風池・関元兪・関元への灸

    腎経病変(太り気味、痩せている、皮膚が浅黒く光沢がない、足腰の冷え症、腰痛、下腹痛、のぼせ症、寝汗など): 腎兪・気海・復溜(陰谷)への鍼、腎兪・中極・太谿への灸

    肝経病変(痩せ形、色は蒼白、めまい、全身のふるえ、季肋下部の張り、頭痛・関節痛、イライラ感、憂うつ、不眠など): 肝兪・期門・蠡溝(曲泉)への鍼、肝兪・曲泉への灸

    脾経病変(脂肪質で肥満、皮膚が黄色味がかる、倦怠感、筋痛、胃部不快感、腹痛、悪心、嘔吐など): 脾兪・中脘・梁門・足三里・三陰交への鍼、脾兪・中脘・三陰交への灸

    肺経病変(骨張って痩せ形、皮膚は白くつやがない、汗をかきやすい、皮膚の掻痒感、肩背痛、口内乾燥など): 肺兪・心兪・天枢・気海・曲池への鍼、肺兪・天枢・曲池への灸

     

     

  • 月経とは、卵巣周期(通常25日~28日)に伴って起こる子宮内膜の出血です。下図のように月経周期は、間脳、下垂体前葉、卵巣系が数種類のホルモンを介してお互いに調整し合うものであり、この周期に伴い随伴症状が現れます。月経周期で妊娠が成立しないと子宮内膜がはがれ落ち、血液とともに体外に排出されますが、その際にプロスタグランジンという痛みのもとが子宮を収縮させて下腹部痛や腹痛など、「月経痛」を生じさせます。

        月経周期に伴う体の変化


    月経困難症・月経前緊張症

    「月経困難症」では、通常の月経痛に比べて日常生活がつらいほどの強い痛みと、腰痛や頭痛、吐き気、下痢やめまいなどの全身症状を伴います。また、類似疾患として「月経前緊張症」と呼ばれるものがあり、困難症と同様の症状が月経3~10日前から始まり月経開始前に消失します。

    月経困難症には、原因により機能性と器質性に分けられます。特に背景に病的な異常がない場合は、「機能性月経困難症」と言います。出産前で子宮頸管が非常に細かったり、体質的にプロスタグランジンの分泌が多い人などが強い痛みとして感じやすく、若い人の強い月経痛はほとんどこれにあてはまります。一般的に出産すると月経痛は軽くなります。また、精神不安定、神経症的傾向の強い場合や内分泌失調、自律神経失調なども月経困難症の原因の一つになります。

    一方、何らかの疾患が原因となっている場合は、「器質性月経困難症」と言います。出産後の女性で、以前より月経痛や出血量が増したり、血の塊が出たり、月経前から痛みがある場合などは、子宮筋腫や子宮内膜症などが原因と考えられます。

    鍼灸は機能性のものには著効を示し、何ヵ月かの治療で根治する場合も少なくありません。器質性のものでも対症療法として効果はありますので、鍼灸治療を行う価値はあります。

    月経前緊張症は、下腹部の不快感、膨満感、疼痛、または腰痛などの主症状を初め、精神症状として怒りやすくイライラし、その他、頭重、頭痛、めまい、動悸、嘔気、胃痛、食欲不振、全身倦怠感、浮腫、不眠などの各種症状が現れます。これらは、月経困難症の自律神経障害の症状と重複するものであり、鍼灸治療の良い対象となります。


    月経不順(月経周期の異常)

    通常25日~28日の月経周期が、24日以内と短い場合は「頻発月経」と言います。この場合、排卵が起きていないための無排卵性出血のことが多いのです。出血と出血の間が2週間程度しかなく、かつ、出血期間が10日とか2週間と長く続く場合は、きちんと排卵が起きていないと考えられます。

    月経が40日間隔と遅れがちな場合は稀発月経と呼びますが、その理由としては、排卵はあるものの、スムースに排卵していないことが多いのです。あるいは、月経と思っていた出血が実は排卵がない無排卵性出血ということもよくあります。

    3ヵ月以上月経がない場合を無月経といいます。無月経の多くは、排卵がおこらないでホルモンの機能が低下、あるいは、ほとんど停止していることが多く、しかも、この無月経の状態を長期間(7ヵ月以上)放置しておくと、ホルモンの失調がますます強くなり、頑固なホルモン異常(排卵障害)になります。この場合は単に生理不順では済まされません。子供が欲しいと思った時に、姙娠しにくい体になってしまっています。

    また、卵巣の機能が低下すると女性ホルモンの分泌も減少してしまいます。女性ホルモンのうちエストロゲンと呼ばれるものは、肌のハリ・ツヤと関係し、また血管壁を柔軟に保ったり、コレステロール値を下げると言った働きがあります。女性ホルモンの分泌が低下すると肌の調子が悪くなったり、老化が早まったり、更年期と同じような症状が出たりするのです。


    月経不順(月経量の異常)

    月経の出血量が異常に多く、また、血の塊が多く見られる場合は「過多月経」と考えられます。過多月経が続くと貧血を起こしやすいので注意が必要です。原因となる病気としては、子宮筋腫や子宮内膜症などがあげられます。この場合は、出血量が少しずつ増えたり月経痛や腰痛などを伴うケースが多く見られます。その他、無排卵性月経の場合も出血量が増加することがあります。

    月経の出血量が異常に少ない場合は、「過少月経」と呼ばれます。同時に、月経期間が1~2日で終わる過短月経であるケースが多く見られます。原因としては、子宮の発育不全、子宮内膜の癒着など、子宮に異常のあることが考えられます。また、ホルモンの分泌異常による無排卵性月経や黄体機能不全の場合も、出血量が少なくなることがあります。基礎体温で高温期がなければ無排卵性月経、高温期が9日以内なら黄体機能不全である可能性が高くなります。

     

    月経異常の鍼灸治療

    月経異常の鍼灸治療は、自律神経系の調整を主目標として行います。月経異常に関する共通鍼灸治療として、腎兪、関元兪、関元、三陰交へ鍼と灸を併用して施術すると効果的です。月経困難症・月経前緊張症では、風池、肝兪、次膠、天枢、陰交などの経穴を使って施術するのが有効です。また、月経痛の鎮痛には三陰交の皮内鍼が著効を示します。

    過少月経と稀発月経では、胞肓、帯脈、曲池への鍼、胞肓への灸が、過多月経と頻発月経では、行間への鍼、照海への灸が治療として選択されます。

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    三叉神経痛とは

    顔面の表在感覚は、第5脳神経の三叉神経が支配しています。そのため、多くの顔面痛は三叉神経痛が主体となって起きます。三叉神経は、脳神経中で最大の知覚と運動が混合した神経で、側頭骨の錐体先端で三叉神経節を作って膨大し、3本の三叉神経枝を出します。

    第1枝は眼神経で、前頭と頭頂の皮膚感覚をつかさどります。その他眼瞼、眼球、鼻粘膜の感覚もつかさどっています。第2枝は上顎神経で、頬部、上唇、側頭部の皮膚感覚をつかさどります。

    第3枝は、下顎神経で下顎、下唇、側頭部、耳介の皮膚に分布し、下歯、歯肉、鼓膜、舌の感覚をつかさどり、顎下腺、舌下腺にまで至って分泌作用を支配します。さらに舌下神経、顔面神経と交通して、交感性、副交感性の結合も行います。

    三叉神経痛では、原因が不明である特発性(本態性)がほとんどを占めており、中年以降の女性に多く見られます。特発性三叉神経痛の特徴は、疼痛域が局在していること、発作時間が短いこと、誘発帯を持つこと、感覚障害を持たないこと等があげられます。誘発帯と言うのは、接触刺激や温冷刺激で疼痛発作が誘発される部位があるということで、接触刺激は軽い時に触発され、強い圧迫などでは生じません。例えば、日常動作として顔に触れる、ひげそり、口紅ぬり、歯磨き、咀嚼、嚥下、洗面、冷たい食物の摂取等で生じ、食事や会話などが阻害されてしまいます。

     

     

    三叉神経痛の鍼灸治療と療養

    三叉神経痛で激痛を生じるのは、第2枝の上顎神経と第3枝の下顎神経の領域であり、大の大人が号泣するほどの症状は上顎神経の痛みが多いようです。

    : 風池、肩井、膏肓

    : 風池、肩井または膏肓

     

    療養
    カイロなどによる保温は局所の血液循環を改善するので勧められますが、高温の入浴は一時的に血管拡張で痛みの改善が得られるものの、後に血管収縮でかえって痛みが増すことになりますので注意が必要です。低温で長時間の入浴かシャワーが良いでしょう。飲酒も入浴と同様なことが起きますので、節酒が肝要です。

  • 坐骨神経痛とは

    坐骨神経痛は、名前が示すとおり「坐骨神経」が圧迫などによって生じる「神経痛」を総称したものですが、これは症状(症候名)を示すだけのものであり、病名(原疾患)そのものを表しているものではありません。坐骨神経とは腰椎4番目・5番目の神経と仙骨の前面から出て、梨状筋の下を通り、大腿後面中央を下行、膝の裏で総腓骨神経と脛骨神経に分かれ、下肢~足裏に走行する、人体の中で最も太くて長い神経です。坐骨神経痛は、坐骨神経が圧迫などの障害を受けたため、腰・臀部~下肢にしびれや痛みを発症するものです。原疾患は以下のように腰椎・仙椎に関連するもの、脊髄に関連するもの、その他の3つに分類されます。◯で示したものが鍼灸治療に対応する主疾患、△は鍼灸治療対応の准疾患を表します。

    1.腰椎・仙椎に関連する坐骨神経痛(◯:主疾患、△:准疾患)

    ◯ 変形性脊椎症
    ◯ 腰部椎間関節(主として仙腸関節)
    △ 椎間板ヘルニア
    △ 脊椎すべり症
    △ 腰部脊椎管狭窄症
    腰部圧迫骨折
    黄色靱帯骨化

     

    2.脊髄に関連する坐骨神経痛

    脊髄腫瘍
    限局性髄膜炎
    脊柱管内血管異常

     

    3.その他の疾患に伴う坐骨神経痛

    ◯ 梨状筋症候群
    ◯ 関節リウマチ
    ◯ 糖尿病
    △ 子宮筋腫
    ◯ 妊娠

     

    まず、直立状態から前屈に入った時の坐骨神経の放散痛がある(ゴールドフラム徴候)かどうかを確認します。痛みがあれば陽性となります。経過観察のために前屈して症状が出た時の指先と床との距離を測定・記録しておきます。腰椎棘突起の叩打痛、あるいは棘突起・棘突起間の圧痛を検査します。そのことにより罹患椎を特定できることがあり、鍼灸治療点のヒントを得ることができます。次に坐骨神経を伸展させたときの症状を調べるために、膝関節と股関節を屈曲させて下肢を挙上し、そこから膝関節を伸展していきます。この時に症状が出るもの(ラセーグ徴候)を陽性とします。同様に膝関節を伸展させたまま下肢を挙上し、症状の出現状態を診るのをSLR(下肢伸展挙上テスト)と呼んでいます。椎間板ヘルニアの同定に重要な検査でもあります。神経痛の部位の確認としては、太い神経が体表に現れる部位での圧痛を調べます。場所としては臀部の梨状筋や大腿後面中央、ふくらはぎの外側部です。また、障害を受けている神経根の部位により対応する足の指に感覚障害が生じます。検査は筆により感覚異常の場所を確認し、障害部位を推定します。梨状筋の過緊張を検出するために、SLRで陰性の時に下肢を挙上して大腿を内旋させたとき疼痛の有無を調べるボンネット・テストや、下肢を交叉させて患側の大腿の内転と内旋により疼痛を起こさせる梨状筋緊張試験を行います。

    坐骨神経痛の鍼灸治療と療養

    傍神経刺とその他の鍼

    傍神経刺として、患側の上大腸兪(L4棘突起下縁の外方3cm)・殿部圧点(上後腸骨棘の外下縁と大腿骨大転子の内上縁を結んだ中点)に2.5寸の鍼を約6cm刺入し15分間置鍼します。その他に両側腎兪・健側大腸兪・上胞肓・外胞肓・外殷門・外承筋・足三里の8穴に腰殿部は1.5~2cm、下肢部は1~1.5cm刺入し15分間置鍼します。

     

    療養

    坐骨神経痛は多くが慢性的疼痛であり、場合によっては安静時でも激しい痛みに苦しめられることもあります。この様な場合は絶対安静が必要ですが、患側を上にして側臥位をとり股関節・膝関節は共に少し屈曲して、できるだけ坐骨神経を伸展させないようにします。それでも痛む時は腹部に枕を入れて腹臥位になるとよいでしょう。低温のカイロなどによる長時間保温は局所の血液循環を改善し、筋肉の緊張を和らげるので勧められますが、高温の入浴は一時的に血管拡張で痛みの改善が得られるものの、後に血管収縮でかえって痛みが増すことになりますので注意が必要です。低温で長時間の入浴かシャワーが良いでしょう。飲酒も入浴と同様なことが起きますので、禁酒または節酒が肝要です。

     

  • 2種類の自律神経の役割

    自律神経は意識的な制御ができない不随神経で、平滑筋、心筋および腺に分布し、そのうちの遠心性神経は交感神経、および副交感神経に分けられ、各々役割分担を持っています。交感神経が、外敵や外からの刺激に瞬時に反応できるように体勢を整えるのが特徴的な役割だとすれば、一方の副交感神経は、リラックスするための神経で、緊張した身体を休めて疲れを解消したり、修復したりしておくのが役割です。

     

    交感神経と副交感神経の働き

     

    自律神経失調症とは自律神経失調症は、交感神経と副交感神経という2種類の神経のバランスが崩れたためにおこる様々な身体の不調のことです。医学的には、内臓や神経・筋肉などの組織に病的異常がなく、原因も不明であり、自律神経の機能にだけに変化が生じた状態を言います。病的異常がないので病院で検査をしても異常なしという結果になることが多いのです。

    自律神経失調症の発症原因には、もともとアレルギー体質であることや、痩せ型である、高血圧、冷え症、性ホルモンの不平衡などが関係します。さらに性格的に短気、生真面目、完全主義、自信欠乏などが因子となり得ます。社会的環境では、仕事上の精神的ストレス、仕事/家庭上の大きな出来事(解雇、転職、家族の死別、離婚など)による精神不安も自律神経バランスを傷害する原因となります。これらは受けるストレスの種類、大きさ、また感受性など個人差も大きく、症状の出方も様々で不安定です。

    『自律神経失調症』はいわゆる「不定愁訴」の主要疾患です。不定愁訴全体には、精神的な愁訴がメインの精神疾患であり、パニック障害や強迫性障害などに代表される「神経症」や、身体的愁訴がメインの「心身症」が含まれています。心身症は、精神的な緊張や過大なストレスが原因で生じる身体疾患であり、症状の発生原因や転帰に心因が大きく影響しています。

     

    自律神経失調症の症状

     頭 ・・・ 頭痛、頭重感、偏頭痛、筋緊張性頭痛、脱毛
     耳 ・・・ 耳鳴、耳の閉塞感
     口 ・・・ 口の乾き、口中の痛み、味覚異常
     眼 ・・・ 疲れ目、眼瞼痙攣、なみだ目、目が開かない、目の乾き(ドライアイ)
     のど ・・・ 異物感、圧迫感、イガイガ感、詰まり感(食事の時など)
     心臓・血管系 ・・・ 動悸、胸部圧迫感、めまい、立ちくらみ、のぼせ、冷え、ほてり、しびれ、血圧の変動、不整脈
     呼吸器 ・・・ 息苦しい、息がつまる、息ができない、酸欠感、息切れ
     消化器 ・・・ 食道のつかえ、異物感、吐き気、腹部膨満感、下腹部の張り、腹鳴、胃の不快感、便秘、下痢、ガスがたまる
     手 ・・・ 手のしびれ、手の痛み、手の冷え
     足 ・・・ 足のしびれ、足のひえ、足の痛み、足がふらつく
     皮膚 ・・・ 多汗、汗が出ない、冷や汗、皮膚の乾燥、皮膚のかゆみ
     泌尿器 ・・・ 頻尿、尿が出にくい、残尿感
     生殖器 ・・・ インポテンツ、早漏、射精不能、生理不順、外陰部のかゆみ
     筋肉・関節 ・・・ 首、肩、背中のコリ・痛みやハリ感、関節のいたみ、関節のだるさ、力が入らない
     全身症状 ・・・ 倦怠感、易疲労感、めまい、微熱、フラフラする、ほてり、食欲がない、不眠(眠れない、すぐ目が覚める、起きるのがつらい)
     精神症状 ・・・ 感情的(怒りっぽくなる、イライラする、すぐ悲しくなる)、不安感(不安になる、恐怖心におそわれる)、ネガティブ指向(何かと悲観的になる、落ち込むと回復しない、ささいなことが気になる)、無気力(やる気がでない、何もしたくない)、集中力の低下(集中力がない、記憶力や注意力が低下する)

     

     

    自律神経失調症と関係の深い病気症状が特定の部位に強くあらわれた場合は病名がつけられることもあります。以下のような病気は自律神経失調症の一種です。

    循環器系 心臓神経症、不整脈、起立失調症候群、起立性調節障害
    呼吸器系 過呼吸症候群、気管支ぜんそく
    消化器系 過敏性大腸症候群、胆道ジスキネジー、神経症嘔吐症、反復性臍疝痛、神経性下痢
    神経系 偏頭痛、緊張性頭痛
    耳鼻科 めまい、メニエール病、乗り物酔い、咽喉頭異常感症
    口腔外科 口内異常感症、舌痛症、顎関節症
    皮膚科 円形脱毛症、発汗異常、慢性じんましん
    泌尿器系 膀胱神経症、夜尿症、心因性排尿障害
    婦人科 更年期障害

     

     

    自律神経失調症の鍼灸治療

    西洋医学的には神経症、心身症、自律神経失調症など不定愁訴の治療方法は各々異なりますが、東洋医学では愁訴にかかわらず、自律神経の関与が考えられる点において、共通の治療法で有効な結果を得る場合が多いものです。

    共通治療:肺兪・肝兪・腎兪・中脘・天枢などへの鍼、肝兪・腎兪への灸

    筋肉のこわばりを主訴とするもの(倦怠感、易疲労、肩こり、関節のこわばりなど):肩井・脾兪・曲池・足三里への鍼、曲池・足三里への灸

    神経系愁訴(頭痛、頭重、イライラ感、不眠、めまいなど):天柱・風池・完骨・太陽への鍼、天柱・完骨への灸

    循環器系愁訴(動悸、胸部絞扼感、血圧変動、頻脈、のぼせ、足腰の冷えなど):心兪・膻中・郄門・太谿への鍼

    消化器系愁訴(胃部のつかえ、軽い胃痛、悪心、嘔吐、口渇などで便秘・下痢を伴いやすい:脾兪・大腸兪・梁門・足三里・三陰交への鍼、脾兪・足三里への灸

    呼吸器系愁訴(息苦しさ、息切れ、長期の咳など):中府・尺沢への鍼

    皮膚系愁訴(発汗異常、多汗、皮膚掻痒など:肩髎・曲池・築賓・陰谷への鍼、曲池・築賓への灸

    泌尿・生殖器系愁訴(頻尿、残尿感、陰萎、月経困難、不感症など):関元兪・次膠・関元・陰谷・三陰交・崑崙への鍼、関元兪・関元への灸

     

  • 頭痛は、疾患などの原因がないのに頭痛が繰り返して起こる「機能性頭痛」と、原因がはっきりしている「症候性頭痛」の2つに大きく分けられます。

    「機能性頭痛」は、慢性頭痛、頭痛持ちの頭痛とも言われ、片頭痛、緊張型頭痛(筋収縮性頭痛)、群発頭痛がこれに該当し鍼灸の良い適応となります。

    一方、「症候性頭痛」は脳などの疾患が原因で起こる頭痛であり、脳卒中や外傷による硬膜下血腫、脳腫瘍など、生命の危険を伴うこともあるので要注意です。以下のような症状の場合は、一刻も早く病院で精密検査を受けてください。

    ・ハンマーで殴られたような激痛、今まで経験したことのない痛み
    ・片側の手足、顔半分の痺れ、麻痺が起こる
    ・呂律が回らない、言葉がうまく出ない
    ・他人の言うことが理解できない
    ・力があるのに立てない、歩けない、ふらつく
    ・片方の目が見えない、物が二重に見える、視野の半分が欠ける

    現在、日本人の3~4人に1人(約3000万人)が「頭痛持ち」と言われています。そのうち70%以上が緊張性頭痛、25%が片頭痛、0.03%が群発頭痛で、クモ膜下出血・脳腫瘍による頭痛は、毎年約1~3万人に発生すると言われています。男性よりも女性のほうが頭痛の症状を訴えることが多く、筋緊張性頭痛の6割、片頭痛の8割が女性です。これはホルモンの関係と考えられています。

    鍼灸治療の対象になるのは、「機能性頭痛(緊張型頭痛・筋収縮性頭痛・片/偏頭痛・群発頭痛)」ですが、これらの特徴と治療方法について見ていきます。

     

    緊張型頭痛・筋収縮性頭痛の鍼灸治療

    原因は、首の筋肉の緊張とそれに伴う血管や神経への圧迫で起こります。緊張性頭痛の症状としては、後頚部から後頭部にかけて鈍痛や帽子をかぶったような感じ、圧迫感、頭重感、締め付けられた感じがあります。時には側頭部や前頭部の方にも症状が現れ、ほとんどの場合が首や肩のコリや痛みを併発しています。

    このタイプの頭痛の発症はゆるやかで症状が比較的長く続き、お風呂に入ったりして温めたりすると楽になります。
    頚椎の上部からは頭へ、中央部や下部からは頚、肩、手に神経が走っているので、前傾時に頸椎が頭を支えるという負担が大きくなれば、頭痛だけでなく頚コリ、肩コリも併発しやすいのです。

    鍼灸による治療では、頸椎上部のコリのある筋肉が神経を締め付けやすいので、ここを緩めてあげれば症状をとることができます。ツボでいうと天柱、風池、完骨に相当します。鍼は、筋肉がコリ固まって緊張性頭痛の原因となっている所に直接アプローチするので断然効果的です。

     

    片頭痛の鍼灸治療

    片頭痛の症状は、頭の片側がズキンズキンと脈打つような拍動性の強い痛みに襲われます。このような痛みが月に1~2回、多い人では週に1~2回発作的に起こり、数時間から3日間ほど続きます。頭痛に伴って吐き気がしたり、また、光や音に過敏になったり、体を動かすと痛みがひどくなるため、片頭痛発作が始まると、部屋を暗くして洗面器をかかえて寝込んでしまうこともあります。

    片頭痛の痛み自体は、休息や睡眠により和らぎます。発作が治まると次の発作が起こるまで全く症状がみられなくなります。

    頭痛が起こる「前兆」として、約10~20分間、視界がチカチカしたりギザギザした模様が広がって、ものが見えにくいといった症状が出る場合もあります。これを「閃輝暗点」と呼んでいます。

    東洋医学では全身の血液の流れのバランスを重視します。頭痛の多くは頭部の方へ血液が過度に供給され、手足など末梢の循環が悪い状態です。手足に行くはずの血液が頭部にそのまま留まるので、頭部が充血してパンパンに張りつめた状態になり頭痛を起こすわけです。これを治すには頭や頚への治療だけでなく、手や足といった末梢のツボを刺激し、頭に上った血を手足の方へ誘導していかなくてはなりません。

    また、鍼灸には拘縮した血管を拡張するだけでなく、拡張しすぎた血管を収縮させる機能も持っていますので、それを用いて頭頸部において血液の流れを正常に戻します。このように局所治療と全体治療を併用していかなければなりません。
    局所治療である頭部のツボは、緊張型頭痛と同じ天柱、風池、完骨の他に百会、正営、承霊などが用いられます。

     

    群発頭痛・群発性頭痛の鍼灸治療

    群発頭痛の症状は片側の眼の奥が激しく痛みます。「キリで眼の奥を突かれる」様な痛みと表現されることもあります。発症する時間帯は夜間に多く、一旦発作が始まるとおよそ30分から2時間程続きます。群発頭痛は発症期間に特徴があり1~3ヵ月にわたって続き、特に春から梅雨の時期にかけて多発します。

    原因はよくわかっていませんが、片頭痛のように頭蓋外血管の異常拡張が関係していると考えられています。また症状の範囲からみて三叉神経の関与も疑われます。

    群発頭痛に対する鍼灸治療の方法は、緊張性頭痛や片頭痛とあまり変わりありません。どの頭痛も首や筋肉のコリ感や痛みを訴えている場合がほとんどです。群発頭痛も同じように首の筋肉、特に頭に近い上部の筋の緊張をとります。

  • あるアンケート調査によると、一般の方で「腰痛症がある」と答えた人は全体の実に約70%にもなります。特に女性は、若い世代から高齢者までどの世代でも70%前後の方が「腰痛症がある」と答えています。さらに、80%以上の方が「腰痛になったことがある」と答えています。腰痛は生活不便度が高いからか、腰痛症を持つ方の25%が病院やマッサージに行っているようです。

    腰痛には慢性的な腰痛症と、ぎっくり腰のような急性腰痛症があり、救急の場合の対処法が異なるので注意が必要です。「急性腰痛症」では、すばやく患部を冷やして炎症を最小限に抑える必要があります。しかし急性腰痛症が数日経過して治まっている場合や「慢性腰痛症」の場合には、誤って湿布薬などで患部を冷やしてしまうと血流が阻害されかえって症状が悪化してしまいます。

    腰痛には危険な病気が潜んでいることもありますので、気をつけなければなりません。下肢のしびれや麻痺などの神経症状、または発熱などを伴っている場合は、迷わず病院に行って診てもらってください。腰椎ヘルニアを初め、骨や内臓に転移した癌、膵炎、胆嚢炎・胆石、胃・十二指腸潰瘍の可能性がないとは言い切れません。このように内臓の病気が別の場所の痛みとなって現れるのを「関連痛」と呼んでいますが、腰や肩などは関連痛の出やすい場所ですので注意が必要です。

     

    腰痛の原因

    変形性脊椎症

    脊椎は加齢に応じて水分を失い、体質、過労、外傷などと相まって椎間軟骨に変性(荷重面の硬化、靱帯付着部の骨新生)が生じます。朝一番で腰痛があり、動作開始時や長時間の同一姿勢で痛みが増し、適度な運動で軽減します。また、安静、入浴でも軽減します。鍼灸治療は効果的ですが、慢性的な腰痛は数ヵ月の治療を要する場合もあります。

     

    椎間板ヘルニア

    椎間関節の髄核が線維輪を破って脱出し、神経根を圧迫して痛みを生じるものです。そのため、坐骨神経痛を伴うことも多いです。比較的若い年代に多く、重量物を持ち上げたり、スポーツなどの力学的負担がきっかけになることも少なくありません。

     

    腰部脊柱管狭窄症

    脊髄神経の通り道である脊柱管が、骨の変形や腰の靭帯が分厚くなったりして狭くなることで、神経症状が出現するものです。脊柱管が狭くなる原因として、加齢に伴い骨や靭帯が徐々に変形してくる場合や、腰の骨の骨折後の治癒過程で生じてくる場合などがあります。

    特徴的な症状として間欠性跛行というものがあります。これは歩いているうちに脚の痛みや痺れが強くなり一時的に歩くのが困難になるけれども、体を前にかがめたりしゃがみこんだりすればまた歩くことができるというものです。つまり腰椎椎間板ヘルニアとは逆で、立っていたり歩いていたり腰を反ると症状が悪化し、体を前に屈めたり座っている方が楽になるものです。腰椎椎間板ヘルニアと脊柱管狭窄症はレントゲンで大方予想はできますが、実際に神経が圧迫されているかどうかはMRIを撮影してみなければわかりません。

     

     

     

    腰椎すべり症

    腰椎すべり症は1つの腰の骨だけが前方のずれてしまう状態のことです。このズレにより、腰の骨の位置関係が変わり、腰の神経や関節の動きに影響を与えてします。

    原因としては

    ① 脊椎分離症で安定性を失った背骨が前に滑り出てしまう

    ② 椎間板や関節など動く部分が変形してしまい、前に滑り出てしまう

    その他にも、生まれつき背骨の形に異常がある場合や、交通事故などの外傷から生じる場合もあります。

     

    腰椎分離症

    腰痛分離症は青少年期のスポーツが原因と考えられており、小学生〜高校生にかけて多い疾患です。腰椎分離症とは、椎弓という腰の関節を構成している部分が骨折してしまうものです。成長期の活発な運動により、腰の過度な使用となり、関節に負担がかかり骨折してしまいます。多くは腰を反って、ひねる動作で痛みが出現します。野球のスイングやバレーボールのスパイクなどひねる動きが多いスポーツに好発します。

    腰椎分離症はいわゆる骨折している状態であるため、硬性(硬い)コルセットを装着し、骨が繋がるまで安静にしなければなりません。小学生で見つかった腰椎分離症に関しては安静により治癒が見込めますが、高校生になるとこの骨が治癒する確率は下がってしまいますので、早期発見が重要になってきます。もし、スポーツをしていて腰をひねる動きで痛みがある場合は、一度レントゲン検査を受けた方が良いかもしれません。この腰椎分離症を発症し、骨が繋がらなかった場合は、将来的には腰椎分離すべり症というものに発展してしまう可能性があります。

     

    圧迫骨折

    腰椎圧迫骨折は腰椎に屈曲圧迫力が加わり、本来四角形である背骨がくさび形に潰れてしまう状態です。腰が勢いよく曲がる力が加わる状態であるため、勢いよく転倒して尻もちをついてしまったり、ラグビーなどのスポーツでタックルした時や、高所からの転落などで生じます。また高齢者の場合は、骨粗しょう症を合併していて、骨がもろくなっている場合は、くしゃみをしただけでも生じる場合があります。

    圧迫骨折が生じた場合は、硬性コルセットを作成し、腰に曲がる負担がかからないようにします。また痛みに応じてですが、腰を曲げる腹筋や股関節の前の筋肉を鍛えることは禁忌で、背筋の筋力を鍛える運動療法を実施していきます。

     

    ■非特異的腰痛

    筋・筋膜性の痛み

    筋・筋膜性腰痛とは筋肉の問題による腰痛のことです。筋肉は筋膜という膜状の組織に包まれています。この筋肉と筋膜に何らかの問題が生じ、傷んでしまい痛みを感じるものです。筋肉はゴムの様に伸び縮みし、この筋膜の間を滑るように動いています。しかし筋肉の使いすぎや、急に力を入れて痛めてしまうことによって筋肉には筋スパズムという凝りが生じます。この凝りが筋肉と筋膜の動きを悪くし、筋肉内の血液循環を悪くし、痛みを生じさせます。

     

    椎間関節性の痛み

    腰椎は全てで5個あり、それぞれの骨の間には椎間関節という関節が存在しています。この関節に負担がかかり痛みが生じる痛みが椎間関節性の痛みです。腰椎の関節は、関節の向きからして体を前に曲げる・後ろに反らすことを得意としています。しかし、体を捻る・横に倒すといった動きは不得意で、関節に負担をかける形になります。関節に負担がかかることにより関節の軟骨が擦り減ったり、炎症を起こしたり、関節の周りにある靭帯などを痛めてしまい痛みにつながってしまいます。

    筋・筋膜性腰痛と椎間関節性腰痛に関してはレントゲンやMRIに異常が写ることはありません。痛みの出現する動きや、押さえて痛い箇所などから判断してどこの組織が痛んでいるのか確認して判断していきます。

     

    椎間板性の痛み

    椎間板性の痛みは椎間板ヘルニアと似ています。椎間板ヘルニアは椎間板の中の水分が飛び出してしまった状態ですが、飛び出す手前の時に感じるものが椎間板性の痛みです。椎間板の周りには水分が出ないように補強している繊維が重なり合って層を作っています。この層の中で、最も外側にある層に痛みを感じる組織が存在しています。この層が何らかの要因で傷ついたりすると痛みを感じるようになります。

    椎間板は構造上、前側が潰れるのと捻れるストレスには弱くできています。つまり普段から腰を丸く姿勢を長くとる、腰が丸くなった状態のまま体を捻るような作業をしている人は痛めやすくなってしまいます。体を曲げると腰が痛い、さらに体を捻るともっと痛くなる。しかし脚のしびれなどは特に感じないという人はこの椎間板が痛んでいるかもしれません。ゆくゆくは椎間板ヘルニアに発展してしまう可能性も秘めていますので、姿勢や体の使い方に注意し、体のストレッチをして予防する必要があります。

     

    仙腸関節性の痛み

    仙腸関節とは骨盤と背骨の一番下にある仙骨をつなぐ関節のことで、下半身と上半身をつなぐ、土台となる関節です。この仙腸関節の周りには靭帯や関節包という組織が豊富に存在しており、そこには痛みを感じる組織がたくさんあります。この仙腸関節は他の関節とは異なり、2〜3ミリしか動かないと言われています。この関節が不意に大きく動いてしまうことで捻挫を起こしたり、関節が引っかかってしまったりすることで痛みを感じるようになります。多いのが、女性の生理の時や出産前後での腰部痛がこれに当たります。生理の時は女性の骨盤周辺の靭帯は緩み、関節が不安定な状態になり、周りの筋肉に過剰な負担がかかります。また出産時にはこの仙腸関節が外れて骨盤が開かなければ子供が出てくることができませんので、靭帯が傷ついて、これも関節が不安定な状態となっています。出産時には一度不安定な状態になりますが、時間経過とともに元に戻りますので、心配は要りません。

    仙腸関節の痛みは一般的なヘルニアや脊柱管狭窄症よりは少し下の方の骨盤に近い箇所が痛くなり、お尻や太もと、股関節の付け根の方まで痛みが広がることもあります。仙腸関節痛の判定は関節を直接動かしたり、押さえたりして痛みが再現できるか確認します。治療としては炎症の緩和や鎮痛を目的とした投薬や注射、骨盤周囲の安定化を図る骨盤ベルトや軟性コルセットを使用すると症状の緩和が図れます。

    ◇心因性の痛み

    最近の研究では腰痛と心理面は深く影響していることがわかってきています。仕事をしていて腰痛を有している場合、その腰痛が治りにくい要因としてうつ状態、仕事上の人間関係の問題、仕事上の不満などが挙げられています。また、腰痛が軽いにも関わらず、重度の機能障害(日常生活への悪影響)を持つ患者は、高齢、ストレス、うつ状態、過労、仕事の内容・収入・環境への低い満足度、人間関係の不良を抱えており、その患者の社会的背景が影響を及ぼしていることも報告されています。現代の社会はストレス社会で、仕事や将来への不安・不満、家庭を含む周囲環境のストレスに対するケアも必要ということが分かります。

     

    腰痛治療

    腰痛の治療は、肩こりと同様に全身治療から入ります。全身の気血の巡りを良くし、自律神経のバランスをとった上で局所治療に入った方が鍼灸の治療効果が長持ちします。鍼灸を痛いところに施すと、その部分の血行を促進し余分な神経刺激を抑えるばかりでなく、エンドルフィンなど脳内モルヒネと呼ばれる鎮痛物質の分泌を促すことにより痛みを抑えることが可能となります。鎮痛剤はよく効きますが、薬には胃腸障害などの副作用があります。それに対して鍼灸は副作用のない自然な治療が可能です。

    仙腸関節は体幹の関節では可動域の少ない関節ですが、ここの機能異常が腰痛の原因となっていることが多いものです。従って、鍼灸に整体手技の併用によりさらに治療効果が上がります。整体手技で仙腸関節の可動域を拡げることにより、腰痛の治療と腰痛の予防も兼ねることが可能となります。

     

    腰痛の鍼灸治療

    鍼: 腎兪、大腸兪、上飛揚(外側腓腹筋)、追加で気海兪、関元兪、委中、志室

    灸: 腎兪、大腸兪 鍼との併用も有用(特に慢性痛)

     

    腰痛の療養指示

    急性腰痛の場合であっても、重症な病気や怪我が原因だったり、動けないほどの強い痛みがあったりする場合でなければ、動ける範囲で動くことが推奨されています。無理のない範囲で体の動きを保つようにしましょう。急性腰痛は腰の周辺の組織が何らかのダメージを受けた直後に発症するので、症状が起きた直後は温めるのではなく冷やすことによってダメージを受けた部分の炎症を和らげます。

    痛いからと言って全く体を動かさなかった場合、筋力が低下して血行不良を引き起こします。また、筋肉を使わないと筋肉は緊張して血流が悪くなり、さらに痛みを長引かせる原因になります。そのため、適度に体を動かしたり、筋肉をほぐすストレッチや筋肉を鍛えるトレーニングを行ったりします。さらに、筋肉の血行不良への対処法として、腰を温めることが勧められます。また、心理的な要因も関係することがあるため、ストレスを溜めないよう生活の工夫をする必要もあります。

    慢性腰痛の場合は、できるだけ筋肉をほぐして血流を改善し、動きやすい体を保って活動的な生活を送ることが大切です。確実に血行を改善する方法はお風呂に浸かって全身を温めることです。しかし、余り熱い湯に入ったりするのは逆効果となりますので注意が必要です。入浴する場合は、38℃程度の低温にゆっくり入り、あとは身体を冷やさないようにして休みます。腰だけを温める場合は、身近にある使い捨てカイロを使用したり、お湯や電子レンジで温めることができるホットパック*を活用したりすると良いでしょう(*温熱療法の一つとしてよく用いられ、保温材が入った物の総称)。ホットパックを使用する場合は、ホットパックが腰に当たるように仰向けに寝て、腰を圧迫しながら温めるホットマッサージもおすすめです。

     

     

  • 背中のはりや痛みの原因には、多くの方が主訴として持ったことがある「肩コリ」や「腰痛」と共通しているものが多いのです。最初に共通点について以下にまとめさせて頂きます。

    1) パソコン、携帯(スマホ)等の長時間使用: 同じ姿勢で長時間作業をしていると血流にムラができ、血流の悪い筋肉は酸素や栄養が行き渡らず、また疲労物質が蓄積しても排出できないため筋の硬結圧痛を引き起こします。いわゆる「コリ」を自覚するようになります。多くの「肩コリ」、「頸コリ」、「背中のコリ」、そして「腰痛」の多くがこれに当てはまります。

    2) 仕事や家庭でのストレス過剰状態: ストレスが高くなると交感神経の働きが副交感神経のそれよりもさらに優位になります(自律神経失調)。そうすると血管が収縮し、さらに血流の悪い場所を多く作ってしまいます。高ストレスの方に「肩コリ」、「背中のコリ」、「腰痛」が多く見られるのは、そういう理由によります。さらには、ストレスにより分泌されるコルチゾルやアドレナリンの作用により免疫系が低下し、感冒に罹りやすくなったり、扁桃炎や帯状疱疹などの健康障害が生じやすくなります。

    3) 関連痛による痛み: 頸部、背中、腰などに痛みが発生したとき、実は以下のような重大疾患が起きていることがあります。実際には痛みを感じている場所とは離れた臓器の障害が原 因にもかかわらず、脳の勘違いによって生じます。痛みを感じている部位の神経と障害部位からの痛みの信号が、同じ神経の束につながっていたり、神経束が隣合っているような場合に起きます。このような臓器の疾患は、鍼灸の対象とはなりませんので病院の専門部門でしっかり診て頂かねばなりません。

    上記の1)と2)がこれらの「コリ」に対して共通して鍼灸あん摩マッサージ指圧の対象となりますが、一方、「背中のコリ」だけが、「肩コリ」、「頸コリ」や「腰痛」などと異なっているところがあります。それは、背中には内臓のトラブル(問題)が表れるツボが存在しているということです。すなわち、内臓の病気や障害によって背中にはりや痛みを生じることがあるということなのです。これは言い換えると、背中のツボを探って硬いところや痛いところを見つけることにより、問題のある内臓を類推できるのです(東洋医学の大きな特長です)。

    私どもの治療院では、患者さんの背中を指圧・あん摩しながら内臓の問題点を診断させて頂いています。これは、病気を診断すると言うことではありません。あくまでもある臓器が弱っているとか、自律神経の働きに問題があると言ったようなことを表しています。例えば「心兪」というツボが硬く、押すと痛みを感じるような場合、ストレスが過剰に蓄積している可能性が高いとか、「脾兪」や「胃兪」が痛む場合は暴飲暴食などにより上部消化器系に問題が起きているなどといったことが実際に生じます。結果は問診と合わせて判断し、治療に当たらせて頂いています。

    背中の硬いツボや押して痛いツボを、あるいは筋肉やツボが弱っている状態(元気がない状態)を、鍼灸やあん摩マッサージ指圧により正常状態に戻してあげると、末梢循環、毛細循環が改善し、内臓の働きや胃腸が活発になり、胃もたれ、消化不良などの症状が楽になります。さらには、そういった症状に対する予防法となります。

    自律神経失調症更年期症状では、「のぼせ」や「ほてり」、そして肩が凝る、疲れやすい、イライラするといった症状が出てきます。特に、首のコリ、肩の真上の筋肉のコリは、のぼせや頭痛、頭重などの症状に関係します。さらに、背中のコリ、肩甲骨の内側の筋肉のコリは、動悸、息切れ、胸が苦しいなどの症状に関係します。背中全体のコリは寝つきが悪い、眠りが浅く目を覚ましやすいなどの不眠症や背中や腰が痛む、と言った症状と関係します。以上のような場合、強い背中のコリを取ってあげることが必要です。肩の真上、肩甲骨の内側、背中全体のコリを除去することで末梢循環、毛細循環を改善します。これによって、自律神経失調は改善され、更年期障害も出にくい体質になります。

     

  • 五十肩(四十肩)は別名「肩関節周囲炎」とも呼ばれています。肩周辺の老化現象によるものと言われていますが、患者は40~60歳の中年がほとんどであり、若年者にも高齢者にも少ないという状況です。発症の原因も治癒の原因もまだ明確にはなっておらず、症状が軽症で終わるか重症化するかの仕組みもはっきりしていません。

    五十肩は最初、肩関節付近に鈍痛がおこり、腕の可動範囲が狭くなります。次第に痛みは鋭くなり、腕を急に動かすと激痛が走るようになり、痛みのために腕を直角以上に上げられなくなったり、後ろへはほとんど動かせないなどの運動障害が起こります。生活にも支障をきたすようになり、重症化すると、洗髪、髪をとかす、歯磨き、炊事、洗濯物を干す、電車のつり革につかまる、洋服を着る、寝返りを打つ、排便後の尻の始末などが不自由となり、日常生活に大きな困難をもたらします。

    一般に、初期の症状が始まってからピークを迎えるまで数ヵ月を要し、ピークが数週間続いた後は次第に和らいできます。個人差がありますが、鋭い痛みが感じられなくなるまでに半年前後、さらにボールなど物を投げられるようになるまでに1年前後かかる場合があります。しかし、その間関節が固着したり筋が拘縮すると生活の困難さが増し、大幅なQOLの低下は免れません。

    五十肩は、鍼灸治療が効果的と言われています。ある調査によると、鍼灸で80~90%が改善したと言う報告があります。ただし、その調査では治療回数は3~9回、治療日数は13~50日となっています。

    鍼灸治療では肩周囲の経穴(ツボ)に鍼灸を施しますが、更に痛いところが前面なのか後面なのか真横なのか、あるいは全てが痛いのかによりそれぞれの経絡に沿った治療穴を追加します。また、肩の痛みが増すところに腕を上げていきその角度で鍼灸を行います。そうすると痛みが軽減するので徐々に可動域を拡げていきます。いずれにしてもその場ですぐ直るものではなく、ある程度の長期治療が必要となります。

     

     

    五十肩の共通鍼灸治療

    鍼: 巨骨、臑兪、臑会、肩井、膏肓、曲池
    灸: 臑会、曲池、肩井、膏肓

    補助鍼灸治療

    上腕三頭筋長頭痛
    鍼: 消濼、天宗、下肩膠、四瀆、(下肩髃)
    上腕二頭筋長頭痛
    鍼: 肩前、天府、(孔最)
    烏口突起部痛
    鍼: 烏口、天泉
    項背痛
    鍼: 肩外兪

     

    療養指示

    関節の運動制限の回復には、関節の自己運動が必要です。過度な運動に至らない範囲で、可動域を徐々に拡げられるよう運動するのが良いでしょう。また、疼痛患部は冷たい湿布よりも、ホッカイロなどで持続的な保温に努めるのが効果的です。就寝時に腕が肩を引っ張って痛みが増す場合には、タオルなどで腕が下がらぬよう台を作ると痛みの緩和に役立ちます。