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2018年10月15日
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うつ病とは
厚生労働省が実施している調査によれば、精神疾患により医療機関にかかっている患者数は、近年大幅に増加しており、1999年に200万人だったのが2011年は320万人、2014年は390万人となっています。その内訳としては多い順に、うつ病、統合失調症、不安障害、認知症などとなっており、 近年においてうつ病や認知症などの著しい増加が顕著です。
うつ病は、精神活動のエネルギーが欠乏した状態であり、それによって憂うつな気分やさまざまな意欲(食欲、睡眠欲、性欲など)の低下といった心理的症状が続くだけでなく、さまざまな身体的な自覚症状を伴う脳の病気です。即ち、エネルギーの欠乏による全身を統合する脳のダメージにより、システム全体にトラブルが生じてしまっている状態と考えることもできます。
脳のエネルギーが欠乏していなければ、自然治癒力によって憂うつな気分も回復し元気になるのが通常です。時間の経過とともに改善しない、あるいは悪化する場合には生活への支障が大きくなり、「病気」としてとらえることになります。そのため、仕事・家事・勉強など本来の社会的機能がうまく働かなくなり、また人との交際や趣味など日常生活全般にも支障を来すようになります。
うつ病の種類と特徴
うつ病を分類する場合に、①症状の現れ方、②重症度、③初発か再発か、④特徴的な病型などの分類の仕方があります。
① 症状の現れ方による分類
うつ病の中で、うつ状態だけが起こるものを「単極性うつ病」、うつ状態と躁状態の両方が起こるものを「双極性うつ病」と呼びます。
② 重症度による分類
症状による仕事や日常生活に現れる支障の程度による分類です。「軽症」は、仕事や日常生活、他人とのコミュニケーションに生じる障害はわずかで、周囲の人はあまり気がつかないことも多いレベルです。一方「重症」は、仕事や日常生活、他人とのコミュニケーションが明らかに困難なレベルです。「中等症」は、「軽症」と「重症」の間に位置します。
③ 初発か再発かによる分類
「単一性」か「反復性」かの分類です。「反復性」の場合は、特に再発防止に対する対応が重要になってきます。
④ 特徴的な病型による分類
「メランコリー型」、「非定型」、「季節型」、「産後」などがあります。
「メランコリー型」は、典型的なうつ病と言われることの多いタイプです。さまざまな仕事や責務、役割に過剰に適応しているうちに脳のエネルギーが枯渇してしまうような経過をたどるものを指しています。特徴としては、良いことがあっても一切気分が晴れない、明らかな食欲不振や体重減少、気分の落ち込みは決まって朝がいちばん悪い、早朝に目が覚める、過度な罪悪感などがあります。
それに対し「非定型」の特徴としては、良いことに対しては気分がよくなる、食欲は過食傾向で体重増加、過眠、ひどい倦怠感、他人からの批判に過敏などがあります。
「季節型」は「反復性」の一種で、特定の季節にうつ病を発症し季節の移り変わりとともに回復がみられます。どの季節でも起こり得ますが、冬季うつ病が有名で日照時間との関係が言われています。
「産後」のうつ病は、産後4週以内にうつ病を発症するものです。ホルモンの変化、分娩の疲労、子育てに対する不安、授乳などによる睡眠不足など、不健康要因が重なることが影響していると考えられています。
うつ病の原因
さまざまな研究によって分かっていることは、「うつ病を引き起こす原因はひとつではない」ということです。生活の中で起こるさまざまな原因(要因)が複雑に結びついて発症してしまいます。
まず最もきっかけとなりやすい「環境要因」ですが、家族や親しい人の死や離別、仕事や財産、健康など大切なものを失う、人間関係のトラブル、家庭内のトラブル、昇格、降格、結婚、妊娠など職場や家庭での役割の変化など、さまざまなできごとが要因となり得ます。
また「性格傾向」も発症要因のひとつです。義務感が強く、仕事熱心、完璧主義、几帳面、凝り性、常に他人への配慮を重視し関係を保とうとする性格の持ち主は、エネルギーの放出も多いということになります。努力の成果が伴っているうちはエネルギーの回復もみられますが、成果が出せない状況が生じたり、エネルギーの枯渇が起これば発症の危険が高まります。
その他「遺伝的要因」、「慢性的な身体疾患」も発症要因のひとつです。最近の研究でうつ病は、脳内の神経細胞の情報伝達にトラブルが生じているという考え方があります。この情報伝達を担うのが「神経伝達物質」というもので、中でも「セロトニン」や「ノルアドレナリン」といわれるものは、人の感情に関する情報を伝達する物質であることが分かってきました。前述のさまざまな要因によって、これらの物質の機能が低下し、情報の伝達がうまくいかなくなり、うつ病の状態が起きていると考えられています。
うつ病の前兆の状態
まず、うつ病の主要な症状である「憂うつ感」の特徴を挙げます。
① 楽しみや喜びを感じない
通常なら楽しかったようなことでも、楽しみや喜びを感じなくなります。何をしていても憂うつな気分を感じてしまいます。
② 何か良いことが起きても気分が晴れない
きっかけとなったできごとや問題が解決したり、自分にとって良いことが起こっても、気分が晴れない状態が続いてしまいます。
③ 趣味や好きなことが楽しめない
健康な状態であれば、嫌な気分のときに好きな趣味の運動等で思いっきり汗を流したりすることで、気分が晴れたりするものです。うつ病になっていると楽しめないどころか、疲労感ばかりが増してしまいます。
うつ病はこうした症状が2週間以上継続する状態をいいます。早い時点で自覚できれば、発症を未然に防げる可能性も高くなります。ただ、こうしたうつ病を代表とするメンタルヘルス疾患は生活習慣病にもたいへん類似しており、日々生活をしている中で、なかなか自覚しにくいという特徴があります。
そんな中で、エネルギー充電である睡眠に注目すると、「疲れているのに眠れない」となると、充電は底をつき自然治癒力が減少し不健康な方向へ進んでしまいます。最近では、不眠がある人は不眠のない人に比べ、3年以内にうつ病を発症するリスクが4倍になるなど、不眠とうつ病の関連性を示す研究報告が多く、注目されています。睡眠に注目する利点は、自覚しやすい点です。寝つきに30分以上かかる、途中で何度も目が覚める、朝やたら早く目が覚める、熟睡感がなくなる、などに気がついたら、まずは生活習慣を見直すことが重要です。具体的には、仕事の仕方を再検討する、就床前4時間のカフェイン摂取を避ける、直前までパソコンやスマホの画面を見つめない、ぬるめのお湯での入浴や音楽などでリラックスする、目覚めたら日光を取り入れる、趣味など自分のための時間を確保する、休日の過ごし方を工夫するなどがあります。
うつ病の鍼灸治療
うつ病は心因性の疾患であって、その治療は精神的症状の解消を目的にしているわけですが、その状態を作っている基となる自律神経系の過敏性や不安定性を、鍼灸が改善し、付随的な身体的症状を軽減、消失させることで大きな効果を出すことができます。
鍼: 百会、太陽、風池、厥陰兪、肝兪、中脘、内関、蠡溝
百会、太陽、風池は神経系中枢の異常興奮を鎮め、不安、緊張、焦燥、不眠、頭重などの症状を除く効果が高い。厥陰兪、内関は心悸の興奮に効果があり、中脘は食欲不振、胃部重圧感、吐き気などに有効。
灸: 風池、肝兪、内関
また、各症状に合わせて以下のような鍼灸治療を追加すればさらに効果が上がります。
① 頭痛、頭重に対しての鍼: 天柱
② 不眠、めまいに対しての鍼: 完骨
③ 発汗、発疹に対しての鍼: 腎兪、陰谷
④ 四肢の痺れ、運動麻痺、疼痛、倦怠感に対しての鍼: 曲池、足三里
⑤ 動悸、頻脈、不整脈に対しての鍼: 膻中、郄門
⑥ 呼吸困難に対しての鍼: 肺兪、太淵
⑦ 食欲不振、嘔吐、下痢、便秘に対しての鍼: 脾兪、大腸兪
⑧ 性欲低下、月経異常、ED等生殖器系疾患に対しての鍼: 腎兪、関元兪
うつ病の療養指示
うつ病は治療を始めればすぐに治療が終わるというものではありません。治癒していく過程にはある程度の期間が必要になります。 治っていく経過も、良くなったり、悪くなったりという小さな波をもちながら、階段をゆっくりと1段ずつ上るように段階的に改善していきます。そして、うつ病の8割ほどはほとんど以前の元気が回復している状態=「寛解」状態を迎えることができるとされています。
うつ病の鍼灸治療は、自律神経系の過敏性や不安定性を改善することにより、現れた身体的症状に対して働きかけて精神状態の好転を期待するものですが、合わせて自律訓練法、行動療法などの広い意味での心理療法の採用が可能ならば治療のさらなる改善が図れることでしょう。