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2018年6月29日
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痔とは、肛門及び肛門周辺に生じる病気の総称です。特に、直腸や肛門などの粘膜の静脈が刺激されることにより発生するものを指すことが多いようです。痛みや出血などの症状があり、またそのせいで座ることや歩くことが困難になる場合もあります。
日本人の痔の比率は高く、ある製薬メーカーの調査によると成人の3人に1人が痔持ちだとも言われています。男女比では、痔の種類にもよりますが、男性よりも女性に多いようです。痔を放置すると症状が悪化し、場合によっては大腸がんなどの重大な病気になる場合もあります。
肛門の構造
肛門は直腸から続く長さ約3㎝ほどの器官で、正確には肛門管と言います。食べ物の残滓を排泄し、便やガスの排出をコントロールします。内部を見ると、肛門管の粘膜下には直腸静脈叢があり、内壁は歯状線を境に粘膜(直腸)と皮膚(肛門)に分かれます。粘膜で覆われた直腸部分は、自律神経に支配されていて痛みなどの感覚はありませんが、肛門部分は皮膚と同じ脊髄神経に支配されているので痛みを感じます。そのため、歯状線より上の直腸部分にできる内痔核はあまり痛みませんが、歯状線より下の肛門部分にできる外痔核は痛みをより多く感じます。
肛門の外側は内肛門括約筋、外肛門括約筋という筋肉に取り囲まれています。外肛門括約筋は、自分の意思でコントロールすることができます。排便が可能であれば、外肛門括約筋の収縮が解かれ、排便がおこります。これを「随意性排便」といいます。排便時は自力で外肛門括約筋をゆるめるとともに、いきむことで腹圧を高めて便を直腸から押し出します。外肛門括約筋は、自分の意思でゆるめようとしない限り収縮しているので、すぐに排便しないような状況下では、便意をこらえることができます。
一方、内肛門括約筋は、不随意筋で下腹神経(交感神経)と骨盤神経(副交感神経)の支配を受け、睡眠中などの無意識下でも自動的に収縮して肛門を閉じています。
痔の原因
排便異常
痔のほとんどは便秘や下痢がきっかけです。便秘のときの便は硬くなります。この硬い便を無理やり出そうとして強く力むと、肛門の皮膚が切れる裂肛やうっ血を起こしてイボができる痔核の原因になります。また下痢が原因になることも多く、勢いよく出る便や排便の回数が増えることで痔を悪化させたり、細菌に感染して痔ろうを引き起こすことがあります。
同じ姿勢を続けたり、力むことの多い仕事
クルマのドライバーやパソコン作業のデスクワークのように、座ったままでいるような仕事はお尻に負担がかかります。また美容師や販売員、板前のように立ったままの仕事も腹圧をかけることが多く、お尻がうっ血しやすくなります。重いものを持ち上げたり、運ぶような仕事も同様で注意が必要です。
食べすぎ飲みすぎ、刺激物のとりすぎ
酒の飲みすぎは下痢を招きやすくするとともに、生活のリズムも乱します。食べすぎや偏食はもちろん、刺激の強い香辛料のとりすぎも肛門部のうっ血の原因となり、痔を誘発することになります。
運動不足や冷え、ストレスによる血行不良や肛門部の不潔
運動不足や冷えは下腹部の血行不良を招き、肛門に負担をかけます。また、ストレスによって自律神経が乱れることでも肛門の血行不良が起こり、痔にななりやすかったり、悪化させることがあります。また、肛門部を不潔にしていると、肛門に炎症が起こりやすくなり、痔を誘発することがあります。
妊娠や出産による肛門の圧迫
妊娠によって子宮が大きくなると、肛門の圧迫や骨盤内のうっ血によって血行が悪くなり痔の原因になります。さらに出産の際にも強く力むので、痔を発生させたり悪化させたりすることになります。
痔の種類と症状
痔核(イボ痔)
男性に多い症候です。肛門と直腸の境界周辺の粘膜の下は血管が密集して直腸静脈叢となっていますが、その血管がうっ血を起こし、それが膨らんでイボ状の塊になるのが痔核です。この塊が直腸の内側にできるのが内痔核で、痛みを感じることは少なく、排便時に大量の血が出ることもあります。そして肛門の外側にできるのが外痔核です。ある日突然、しこりのような塊ができて激しい痛みを伴います。
裂肛(切れ痔、裂け痔)
女性に多く、便秘症のいきみと硬い便との摩擦で肛門内部が傷つき、それが続くと傷が深くなって強い痛みと出血を引き起こします。排便のたびに激しく痛むために、排便を我慢し便秘となって再び肛門を傷つけるという悪循環に陥りがちです。過半数は内痔核と合併します。
痔ろう(穴痔)
主に下痢が原因となって直腸から肛門の周囲の粘膜に傷がつき、大腸菌などの細菌が侵入して、炎症が起こり、膿が溜まります。この肛門周囲膿瘍を放置していると、膿が自然に皮膚を破って外に流れだします。この膿が流れ出た通り道が肛門の周りに残るのが痔ろうです。肛門周囲の腫脹と共に灼熱感や痛みを感じます。また高熱や寒気、吐き気などの症状をともない、ときには40℃以上の高熱になることもあります。
痔の鍼灸治療
痔疾患には鍼よりも灸が適しています。
灸鍼: 下膠、大腸兪
下膠に灸すると刺すような熱感がありますが、痔核の治療には効果が得られます。大腸兪は補助穴として有効です。この両方を施灸することで相乗効果が得られます。鎮痛の目的で鍼を使用するのも良いのですが、鍼のみの効果としては灸に及ばないので、灸鍼併用が勧められます。
疼痛: 痔核または裂肛で痛みの激しいときは以下の経穴を使用します。
灸: 百会
鍼: 上巨虚、三陰交
百会への施灸は、30壮でも50壮でも痛みが治まるまで続けます。
出血: 出血量が多い痔症候には次の鍼灸を施します。
鍼: 孔最、上巨虚
灸: 復溜
療養指示
痔の治療と予防には、生活習慣を改善することが重要です。まず食生活では、痔の最大の原因である便秘を避けるために食物繊維を摂取することを心がけます。逆に下痢も痔を悪化させるため、アルコールや香辛料などの刺激物を控えることが重要です。その他にも、トイレで力みすぎない、入浴で肛門を温めて血流を良くする、疲労やストレスをためすぎないなどがあげられます。
排便のリズムをつくる
便秘は痔の一番の原因です。とくに朝は便意を感じやすい時間帯ですが、このときに支度が忙しくて便意を我慢するような生活をしていては便秘を招きます。定期的な排便習慣を保つライフスタイルを確立しましょう。
食生活を改善する
朝食を抜くと、痔の大きな原因である便秘になりやすくなります。しっかり朝食をとれば胃が動き出し、大腸も活動しますので、毎日排便のある生活ができます。食事は食物繊維を意識しましょう。食物繊維は消化されず、大腸の運動を刺激して、排便をスムーズにします。暴飲暴食や多量のアルコールは下痢の元になりますので、控えるようにしましょう。
同じ姿勢を長く続けない
痔の予防には同じ姿勢を長時間続けないことが大事です。座りっぱなし、立ちっぱなしのときは、少しでも休憩タイムを作って体を伸ばしたり、肩を上下、足の屈伸などを心がけましょう。座ったまま動けないようなときは、ちょっと腰を浮かせてみるだけでも、お尻にかかる体重から解放され血行が戻ります。
腰周りを冷やさない
痔を助長する原因の一つに冷えがあります。冷えは血行を悪くして肛門部のうっ血を促すので、肛門の大敵です。とくに女性は下半身を冷やすような服装と冷房による冷えにも注意が必要です。
適度な運動とストレスの解消を心がける
運動不足やストレスは、肛門部の血行不良を招くことがあります。軽い運動を習慣にしましょう。とくに、便秘の解消にも効果的な腹筋運動がおすすめです。また、平日は読書やテレビ観賞、お風呂など手軽にできることで、休日は外出などで気分転換を図って日々のストレスを溜めこまない工夫をしてみましょう。
温水洗浄便座を使う
排便後、トイレットペーパーで拭いただけでは、肛門部の便はなかなか取り除けません。また、トイレットペーパーで強く拭くことで肛門の皮膚を傷つけることもあります。温水洗浄便座をぜひ活用しましょう。
痔疾患を悪化させないためのケアをする
日常生活のポイントは便秘を改善することです。排便のときの痛みを考えると躊躇しがちですが、便意があったらすぐにトイレに行き、5分以上力まない習慣をつけましょう。排便後も痛みが消えないときは、楽な姿勢で肛門を中心に温めると痛みが緩和されます。
症状が緩和したら日常生活に適度な運動を取り入れることです。また買物などでもクルマやエスカレーター、エレベーターをなるべく使わないで歩き、体を積極的に動かす習慣をつけることが大切です。またできる限り毎日入浴か座浴で肛門の清潔を保ち、血行を良くしておくと効果的です。
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正常な腸では「蠕動(ぜんどう)運動」により、腸の内容物を肛門側に送ります。内容物が腸を通過する際に、含まれる水分が体内に吸収され適度な水分を含む便になります。理想的とされるバナナ状の便の水分量は70%~80%ですが、これが80%~90%になると通常より少し軟らかい状態の「軟便」に、水分量が90%を超えて液状またはそれに近い状態の水様便を「下痢便」と言います。下痢便や軟便を繰り返し、腹部不快感や腹痛を伴う状態を「下痢」といいます。排便の回数には関係ありません。
腸の「ぜん動運動」が過剰になった場合、腸の内容物が急速に通過するため水分の吸収が十分に行われません。そのため、液状の糞便となり下痢便や軟便になります。また、腸から体内への水分吸収が不十分な時や、腸からの水分分泌が増えると、腸の中の水分が異常に多くなり下痢便や軟便になります。
日常生活から考えられる原因
- 暴飲暴食
発熱をともなわない下痢はほとんどが飲みすぎ、食べすぎ、冷えが原因です。疲れているときは特に消化機能が弱っているので、下痢になりやすくなります。
- アルコールや刺激の強い食べ物
アルコールや、辛みの強い刺激物などを摂取すると、胃酸が多く分泌されすぎて、胃壁の粘膜を傷つけたり、腸のぜん動運動が高まりすぎて下痢を引き起こします。
- 冷えによる消化機能の低下
冷たい物を飲みすぎるなどして胃腸が冷やされると、胃腸の血行が悪くなり、消化機能が低下し、下痢になります。また、冷え症によっても同様のことが起こります。
- 細菌やウイルス感染
食中毒や赤痢、コレラ、風邪など細菌やウイルスの感染が急性の下痢の症状を起こすことがあります。これらの感染性急性下痢の症状は、発熱や腹痛、吐き気、嘔吐などをともなうのが特徴です。
- ストレスによる腸の痙攣
ストレスなどで緊張が高まると、腸の動きをコントロールしている自律神経が乱れて腸が痙攣するので動きがにぶくなり、下痢や便秘になったり、下痢と便秘を繰り返すことがあります。
下痢をともなう疾患
- 過敏性腸症候群
精神的ストレスや情緒不安定などが原因で、腸のぜん動運動に異常が起こり、腹痛をともなう慢性的な下痢を引き起こします。ときに下痢と便秘が交互に起こることもあります。何週間も下痢が続いたり、一時的に治まり、その後再発という現象を繰り返すこともあります。
- 潰瘍性大腸炎
何らかの原因で大腸の粘膜に慢性的な炎症を起こし、粘膜がただれたり、潰瘍が多発します。長期間下痢と腹痛が続き、粘液や血液の混じった便が出たり、発熱などの症状があらわれます。ストレスで症状が悪化し、比較的若い世代での発症が多くみられます。
- 大腸ポリープ
大腸の内側にできるイボ状に突き出た腫瘍で、多くは良性ポリープですが放置すると大腸がんに進行することもあります。血便や下痢、便秘といった症状がみられることがあります。早期のものは、自覚症状がありません。
- 食中毒や風邪
サルモネラ菌やO-157、ノロウイルスなどによる食中毒、ウイルス感染による風邪、コレラや赤痢などに急性の下痢の症状がみられます。これらの疾患は同時に腹痛、発熱、嘔吐をともなうことが多くみられます。
- 乳糖不耐症、アレルギー性胃腸炎
乳糖不耐症は、牛乳などに含まれる乳糖を分解する酵素が少なくて、牛乳などを飲んだときに下痢を起こす疾患です。また、アレルギー性胃腸炎は、アレルギー体質の人が胃腸にアレルギーを起こす原因となる食品を摂取すると、下痢や嘔吐、腹痛などの症状を起こします。
鍼灸治療
鍼灸: 泄止(気海兪外方3寸)、腎兪、天枢
泄止、および腎兪は下痢を止める作用があり、大腸兪は補法で下痢を止め、瀉法で便通をつけることが可能です。
さらに天枢は下痢にも便秘にも供用できます。灸も効果があり、併用も可能です。
臍の上の間接灸なども効果がありますが、長時間の施灸を要します。
小腸性下痢
吸収不良性下痢である慢性腸炎に見られます。腸内細菌の異常繁殖による腐敗、発酵によるもので、慢性腸炎の多くを占めています。
鍼灸: 脾兪、胃兪、中脘、気海、足三里
圧痛、硬結の強い経穴に施術を行います。
大腸性下痢
大腸過敏症による下痢が鍼灸によく適応します。
鍼灸: 大腸兪、水分、上巨虚
大腸兪は天枢と同様に便秘にも下痢にも用いられる経穴で、軽微な刺激を行います。